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01.はじめに|動解析入門

動解析とは

私たちが取り扱う現象の多くは時間的な変化が伴います。ある構造が力を受けて変位する場合を考えますと、力が非常にゆっくりと加われば入力荷重と拘束部位での反力が釣り合います。これはいわゆる静解析の分野です。 しかし、力が急激に加わりますと(力の時間的変化が早い場合)、構造側の質量によって慣性力が発生するため、ある瞬間で見たときの入力荷重と拘束点の反力は釣り合わなくなります。このような慣性力の影響を加味した解析を動解析(※)と呼びます。

ちなみに慣性力を加味した解析のやり方の一つに静的な加速度荷重による解析がありますが、これは静解析です。慣性力の影響とはいっても、その時間的変化が伴う解析を動解析と呼んでいます。したがって時間軸で解析を行いますが、周波数軸で解析を行うやり方もあります。動解析の手法には多数あり、代表的なところでは固有値解析周波数応答解析過渡応答解析などがあります。

本講座では動解析に用いられる各手法の概要について、実際に解析した事例を交えながら説明していきたいと思います。

(※)一般に動解析というと、自動車の衝突解析に代表される陽解法の非線形動解析などもありますが、本講座では線形解析の範疇で主に振動問題を取り扱う分野の解析手法について解説していきます。

なぜ動解析が必要か?

慣性力が影響するレベルで入力荷重が時間的に変化すると、その構造側の応答は静的に荷重を加えた場合に比べて、変位量や変形形態が異なってきます。これに伴いひずみや応力ももちろん異なってきます。これは主に構造が固有に持っている振動数とその変形形態による影響です。

ここで、構造が持っている固有の振動数を固有振動数、固有振動数で振動する変形形態を固有モード(あるいは振動モード)と呼びます。更に、各固有モードにおける減衰比をモード減衰比と呼びます。これら3つの特性は構造の動的な性質を表す上で非常に重要なパラメータであり、モーダルパラメータモード特性と呼ばれます。

動解析を実施する目的は、このような構造側の動的な性質を加味して正しい応答を求めることです。寄与している固有モードにもよりますが、このような状況下において静解析によってその変形量や変形形態を再現することは非常に困難です。もし再現できたとしてもその荷重は非現実的なものとなるでしょう。

以下に簡単な解析モデルで例を示します。

解析モデル

解析モデルは幅50mm、長さ300mm、板厚1.2mmの短冊状のプレートで、素材は鉄鋼材料を想定しています。要素は四辺形1次要素を使用し一様に5mmのサイズでメッシュを作成しました。境界条件は片端を完全拘束し、もう一方の端部に1Nの荷重を加えた片持ち梁モデルです。この時、入力荷重の水準として(A)静的荷重、(B)60Hzの変動荷重、(C)3Hzの変動荷重の3つのパターンで解析した結果を比較します。静的な荷重による理論的な最大変位は5.95mmになります。

(A)静的荷重

下図に静解析を実施した結果を示します。理論的な最大変位は5.95mmですので約1.7%程度の違いです。

(B)60Hzの変動荷重

1Nの荷重を60Hzで変動させた時の解析結果です。

(A)と(B)の結果は最大変位、変形形態共にまったく異なっており、(A)の静的な荷重値をいくら調整したところで動的な荷重が加わった時の(B)の状態を再現することはできません。無理やり複数の荷重を導入すれば再現することはできるかもしれませんが現実的ではありません。このように入力荷重が時間的に変動するような状況においても正しい応答を計算するには動解析が必要になります。

(C)3Hzの変動荷重

更に変動荷重を3Hzにした時の解析結果をを以下に示します。

今度は(A)の静的な荷重が加わった状態の解析結果に近くなりました。(A)の理論値と(C)の違いは5.5[%]程度です。実は静解析を用いるべきか、動解析を用いるべきかは入力される荷重の変動周波数によって判断します。静解析と動解析の違いをどこまで許容するかによりますが、一般的には入力荷重の変動周波数が構造側の最低次の固有振動数の1/3以下であれば静解析として近似しても問題ないと言われます(参考リンク:静解析に近似できる現象とは)。

今回の場合、次項で計算しますが1次の固有振動数が11Hz程度であるため、荷重の変動周波数3Hzは1次固有振動数11Hzの1/3以下となり、静解析に近似できる状況となります。しかしそれでも5.5[%]の誤差はありますので、それを許容できるかどうかは別途判断する必要があります。

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