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13.低サイクル疲労|材料強度学

低サイクル疲労とは

疲労破壊の項でも書きましたが、疲労破壊には破断までの繰り返し回数により、高サイクル疲労、低サイクル疲労に分類されています。その閾値は明確ではなく、一般に10~4〜10~5程度となるようです。

一方、材料の応力状態に着目すると、高サイクル疲労は主に降伏点以下の弾性域、低サイクル疲労は降伏点を超える塑性域の応力が繰り返し発生していることが多いです。機械設計の基本としては降伏応力を超えないように設計しますが、降伏点を超える応力が発生する頻度が極端に少ない場合や、塑性すること自体がその部品の使われ方だったりする場合など、降伏点超えを許容する場合もあります。

本項では、このような低サイクル疲労における疲労寿命の考え方、また高サイクル、低サイクル疲労を統合して疲労寿命を推定する方法などについて説明します。

ヒステリシスループ

まずは降伏点を超えた応力が繰り返し発生する場合の応力とひずみの状態について理解しておく必要があります。

図13-1にひずみ振幅を両振りで制御する疲労試験を実施し場合の応力ひずみ線図を示します。この時の全ひずみ範囲はΔεt、応力範囲はΔσとなります。

図13-1

図のように大きなひずみの繰り返しでは、材料が塑性変形するため、引張り行程と圧縮行程で異なる軌道を描くヒステリシスを形成します。このようにループを描いた曲線をヒステリシスループと呼びます。ちなみに、ひずみをマイナス側→プラス側に変化させる工程→プラス側からマイナス側に変化させる工程→・・・と繰り返すと、曲線上を右回りにループします。

ここで、図中にも示していますが、簡単な作図により、全体のひずみ幅Δεtは弾性ひずみ幅Δεeと塑性ひずみ幅Δεpの和として表わされることが解ると思います。これを式にすると式(13-1)のようになります。

 ・・・(13-1)

Δεt:全ひずみ範囲、Δεe:弾性ひずみ範囲、Δεp:塑性ひずみ範囲

ひずみ基準の疲労寿命予測

疲労寿命の予測には、一般的には7項で説明したS-N曲線が使われます。しかしこれは発生する応力が比較的小さいレベル、つまり降伏応力を超えないような高サイクル疲労にしか基本的には適用できません。ひずみの大きい低サイクル疲労についても統一して疲労寿命を予測できるように考え出されたのがひずみ基準の疲労寿命予測法です。

ひずみ基準の疲労寿命予測法では、高サイクル疲労、低サイクル疲労、それぞれについて、ひずみと破断までの繰り返し回数の関係を近似式で表し、それらを式(13-1)の関係から統一して考えます。

高サイクル疲労

高サイクル疲労はS-N曲線でその寿命を評価できると7項で説明しましたが、これを弾性ひずみ範囲Δεeと破断までの繰り返し数Nfで表現すると、次式(13-2)のように近似することができます。これはバスキンの式(Basquinの式)と呼ばれます。

 ・・・(13-2)

Δεe:弾性ひずみ範囲、σ'f:疲労強度係数、E:弾性率、
Nf:破断までの繰り返し数(2Nf:リバーサル数)、b:疲労強度指数

ここで、弾性ひずみ範囲Δεeを2で割っているのは振幅にするためです。したがって左辺のΔεe/2は弾性ひずみ振幅を表しています。S-N曲線でも応力振幅を基準にしていましたのでそれに倣っているといえます。

また、破断までの繰り返し数Nfを2倍しているのは、半サイクル分のひずみ振幅に着目するサイクルカウント法に適用しやすくするためです。2Nfで波形のピークからピークまで間隔(半サイクル)の数を表します。この2Nfはリバーサル数とも呼ばれます。

σ'fは疲労強度係数、bは疲労強度指数と呼ばれまして、疲労試験により求めたε-N曲線にフィットするように合せ込んで決める材料固有のパラメータです。

低サイクル疲労

低サイクル疲労においては、塑性ひずみがその寿命に大きく影響することが知られています。そこで疲労寿命を塑性ひずみ範囲Δεpと破断までの繰り返し数Nfで近似した式が下式(13-3)になります。これはマンソン・コフィンの式(Manson-Coffinの式)と呼ばれます。マンソン・コフィンの式にはいろいろな形式がありますが、変形すればみな同じです。

 ・・・(13-3)

Δεp:塑性ひずみ範囲、ε'f:疲労延性係数、
Nf:破断までの繰り返し数(2Nf:リバーサル数)、c:疲労延性指数

左辺は塑性ひずみ範囲Δεpを2で割ることで塑性ひずみ振幅を表しています。Nfは破断までの繰り返し数で2Nfはリバーサル数となります。

ε'fは疲労延性係数、cは疲労延性指数と呼ばれまして、疲労試験で求めたε-N曲線にフィットするように合せ込んで決める材料固有のパラメータです。

統合された疲労寿命式 (Morrowの式)

式(13-1)の関係を用いて式(13-2)と式(13-3)を統合し、一つの式にしたものが下式(14-4)です。これはモローの式(Morrowの式)と呼ばれます。

 ・・・(13-4)

Δεt:全ひずみ範囲、σ'f:疲労強度係数、E:弾性率、 b:疲労強度指数
ε'f:疲労延性係数、 c:疲労延性指数 、Nf:破断までの繰り返し数(2Nf:リバーサル数)

さらに、平均応力の影響を考慮すると下式(13-5)のようになります。

 ・・・(13-5)

Δεt:全ひずみ範囲、σ'f:疲労強度係数、E:弾性率、σm:平均応力、 b:疲労強度指数
ε'f:疲労延性係数、 c:疲労延性指数 、Nf:破断までの繰り返し数(2Nf:リバーサル数)

ちなみに平均応力は高サイクル疲労にしか影響しません。これは降伏を超えるような大きなひずみを伴う場合、その繰り返しとともに平均応力が0に近づいていくためです。

低サイクルではその他、応力が時間とともに緩和したり、上昇したりなど、ひずみの大きさや繰り返し回数によって複雑な挙動を示します。このような性質がひずみを基準にする理由でもあります。

ε-N曲線

これまで説明してきたBasquin、Manson-Coffin、Morrowの式をグラフで示すと図13-2のようになります(縦と横軸は対数表示)。Basquinの式が高サイクル疲労の領域、Manson-Coffinの式が低サイクル疲労の領域を担い、そしてMorrowの式でそれぞれをスムーズに繋いだ曲線になっていることが理解できると思います。

図13-2

このように、ひずみを基準に整理したMorrowの式を導入することによって、高サイクル、低サイクル疲労を統一的に扱えるようになります。

ここで、Basquinの式とManson-Coffinの式による線の交点は低サイクル、高サイクルの遷移点となり、遷移寿命と呼ばれNtで表記します。一般的な鉄鋼材料の遷移寿命は10^4前後となることが多いようです。

疲労寿命推定法

高サイクル、低サイクルを統一して疲労寿命を推定する方法について簡単に説明します。

疲労寿命推定手順

まずはひずみゲージ(あるいはFEM)により評価したい部位の全ひずみを時系列で計測します。その時系列波形をレインフローなどのサイクルカウント法に適用して、ひずみ振幅と頻度情報を抽出します。図13-2のε-N曲線より、計測したひずみ振幅に対する寿命Niを同定します。後は同じ振幅のひずみが何回発生しているかという頻度情報niをもとに、マイナー則や修正マイナー則などに適用して寿命を求めることができます。

現在ではこのような処理をコンピュータがやってくれると思いますが・・。一応処理手順を理解しておきましょう。

注意点

サイクルカウント法では半サイクル分のリバーサル数が得られますので、ε-N曲線の横軸を2Nfとする場合もあります。縦軸もひずみ振幅ではなく、ひずみ幅などとする場合もあります。その辺はその時の状況に合わせて適宜読み替えてください。また、高サイクルの領域では平均応力を考慮した方が良い場合もあります。その場合は、サイクルカウント時に振幅と同時に得られるmax、min値から平均応力σmを算出して式(13-5)を適用します。

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