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4.応力テンソルの活用|材料力学

機械設計などに従事する技術者は、材料力学的に計算した曲げ応力、せん断応力など、部材をマクロ的な見方をした応力は良く使うと思いますが、応力テンソルそのものを取り扱うことはまずないと思います。

しかし、FEMを活用して解析、評価を行う技術者にとっては応力テンソルについての理解と、その活用法に関する知識は重要だと考えます。応力テンソルに関する知識があると、いろいろな場面で効率的に作業できることがあります。本項では簡単に応力テンソルの活用法について説明します。

応力テンソルはどのような時に使うのか?

まずは応力テンソルをどのような場面で使用するのかについて説明します。

これまで説明してきたように、応力テンソルは座標系に依存します。ポストプロセッサーで応力を計算するための座標系を変更すると、その座標系に対する応力テンソルの成分も変化します。しかし負荷を受けている部材にとって物理的な応力状態が座標系によって変わはずがありません。そもそも座標系とは人間が勝手に決めたものです。そういった概念を表す量がテンソルであるという話を前項で説明しました。

応力を計算するには面が必要です。考える面に対してどのような力が働いているかで応力が計算されます。したがって考える面を変えれば応力も変わります。つまり座標系を変えることは、応力を計算する面を変えていることになります。

実測応力値とFEM解析値との比較

したがって応力テンソルは、ある特定の方向の応力を参照したい場合に使用します。主には実測応力値とFEM解析値との比較に使用することが多いです。この場合、応力テンソルの成分すべてを使うというよりは、ある特定の成分(成分応力)のみを抜き出して使うことになります。

例えば 図4-1のようなねじり力を受ける矩形梁のような場合、その表面の応力は中央部に斜め45°の方向に高い応力が発生しますので、実測する場合のその方向にひずみゲージを貼ります。( 単軸のひずみゲージは一つの方向の応力しか検出しません)。このひずみゲージで検出した応力とFEMで計算した応力を比較する場合、座標系を図のように傾け、その時のx'方向成分応力(σx'x')を参照することで、ひずみゲージで測定した応力値と同じ土俵で比較することができます。

図4-1.ねじり力を受ける梁

これを例えばミーゼス応力を参照しても実測とは一致しません。ミーゼス応力では√3倍ほど大きな値が計算されるはずです。実測が間違っているわけでも、FEMが間違っているわけでもなく、応力の参照方法が正しくないためこのような結果になるのです。

応力テンソルの効率的活用法

実はポストプロセッサーを使い、上記の方法で一つ一つ座標系を定義し、ひずみゲージ方向の応力を参照する方法は非常に煩雑で手間がかかります。

表計算ソフトでひずみゲージ方向の応力を求める

そんな時は前項の式(3-6)を用いて、応力テンソルとひずみゲージ方向を表すベクトルから表計算ソフト上でひずみゲージ方向応力を計算した方が簡単な場合があります。プリポストプロセッサーによっては、予め設定した節点の応力テンソルをテキストで出力する機能がありますので、応力テンソルの抽出は非常に簡単です。また表計算ソフト上でのゲージ方向応力の計算についても、ゲージ方向を表すベクトルを応力テンソルに2回乗ずるだけですので、そんなに難しくはありません。

ただし、ひずみゲージ方向のベクトルを求めるのが厄介な場合もありますが、3D-CADをうまく活用すれば簡単に求めることができます。具体的にはゲージ方向と同じ方向を向いたエッジ等を使用して、端点と端点の相対距離を求めます。これがそのまま方向ベクトルとなりますが、ベクトルの大きさを1に正規化する必要があります。

荷重条件の検討における応力テンソル活用法

応力テンソルを用いた解析結果評価で非常に有効なのは、荷重条件の検討を実施する場合です。FEMで実機の応力状態を再現させるためには、複雑な荷重パターンの組み合わせになることが多いため、想定される荷重モードを複数定義して、それらにある係数を乗じた荷重の組み合わせとして表現できるような計算の仕方をします。

計算終了後にはポストプロセッサー上で荷重パターンの組み合わせを定義して、実測値の傾向に一致するかどうかを評価・検証します。合わなければさらに組み合わせを再検討して・・というように繰り返し作業が必要になります。また、実測値と検証するためには、先に述べたような座標系を切り替えながら参照する必要があるので、多くの工数を要してしまいます。

応力テンソルを用いれば、テンソル同士の足し算ができるので、Aという荷重パターンによる応力テンソルAと、Bという荷重パターンによる応力テンソルBをある係数を乗じて足し合わせた後、ひずみゲージ方向の応力を計算して実測値と比較するという方法が可能です。さらにこれらの処理を表計算ソフト上でプログラムを組むことで、複数の荷重パターンの組み合わせを自動で作り出し、実測値と比較検証作業まで自動化することができます。

私はこの方法で、数十点の測定点で荷重条件の組み合わせも数百に及ぶ処理を数分で実行しています。これにより非常に実測値との相関が取れた荷重条件を見つけることにができるようになりました。

この辺の話は長くなりそうなので別の機会にまとめることとします。ここでは応力テンソルの活用法についてまとめました。こうして応力テンソルの性質を理解すると、いろいろな活用法が考えられて、普段の作業も効率的に実施できるようになることが理解できたのではないでしょうか。

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