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15.材料力学的考え方の基本|材料力学

部材に働く力

材料力学では部材に働く力を推定して、この力により発生する応力や変位を公式を用いて計算します。そして穴や溶接などの形状不連続がある場合には、文献から応力集中係数を見積もり、実際にはどの程度の応力が発生するかを予測します。

応力や変位の公式、あるいは応力集中係数に関しては前項までに述べた通りですが、部材に働く力を求めることは、一般に非常に難しい場合が多いです。それは実際の製品形状というものが材料力学の教科書に出てくるような単純な形状や構造をしていないためです。

ではどのように設計開発の現場では材料力学的考え方を活用しているのか、その一例を紹介します。

横にらみ(相対評価)での利用方法

製品開発の現場では、まったくの新規で何もないところから設計を開始することはそう多くはありません。むしろ市場にすでに出ている現行機種のモデルチェンジなど、ベースになる製品が存在していることが多いのです。したがって、材料力学をベースに検討する場合(特に設計の初期段階など)は、荷重を正確に求めて応力や変位を絶対的に評価する必要性は少なく、まずは断面性能のだけの比較をすることが多いです。実績のある現行機種の形状では、少なくとも強度や剛性を満足しているはずですので、それより劣らなければよいという考え方です。いわゆる相対評価という方法で、これは現行機種との比較だけでなく、競合他社製品との比較などにも利用されます。これを設計開発の現場では横にらみと呼びます。

ここで断面性能とは、主に断面積断面二次(極)モーメント断面係数のことを言います。これらのうちどれを用いるかは、何を評価したいかによって異なります。

13項で部材に加わる代表的な荷重のパターン(引張りまたは圧縮、曲げ、ねじり)によって発生する応力や変位の公式を紹介しました。重要なことは、これらの公式をよく観察して、どのようなパラメータがその特性に影響しているかを理解することです。

まず剛性で評価したい場合を考えます。剛性とは、その部材に加わる荷重と変位の特性で評価できます。下表にそれぞれの力によって発生する変形量を表す公式を記します。

引張・圧縮力による伸び量
曲げ力による変位量
ねじり力によるねじれ角

これらの公式から解ることを以下にリストします。(ここでは断面形状に関わるパラメータにのみ着目します)

剛性に影響するパラメータ

  • 引張りまたは圧縮の場合:断面積A
  • 曲げの場合:断面二次モーメントI
  • ねじりの場合:断面二次極モーメントIp

説明は後にして、次に強度を評価する場合を考えます。強度は応力で評価できるとして、同様に公式を観察しますと以下のことが解ります。

引張・圧縮力による応力
曲げ力による応力
ねじり力によるせん断応力

強度(応力)に影響するパラメータ

  • 引張りまたは圧縮の場合:断面積A
  • 曲げの場合:断面係数Z
  • ねじりの場合:極断面係数Zp

引張りまたは圧縮では断面積のみが影響しますが、曲げやねじりでは、剛性を評価するか、強度を評価するかで影響するパラメータが異なるのがポイントです。とりあえず断面二次モーメントを考えとけばよいということではないのです。

例えば同じ断面二次モーメントを有する部材同士でも、図心から部材表面までの距離が異なれば、同じ曲げモーメントを受けた時に発生する応力は異なるのです。これは一つの例ですが、そのような性質を理解して設計するようにしましょう。設計初期段階において具体的な荷重が特定できなかったとしても、断面性能を比較するだけで評価できることはたくさんあるのです。またこのような材料力学的性質を理解しておくと、目的に応じた的確な形状を検討できるようになります。

不具合対策での利用方法

例えばある部材の応力を測定したら、基準値に対して2倍の応力が発生していました。当然のことならが試験結果は不合格です。ここで構造を大きく変更するのは大変なので、板厚変更で何とか対策することになったとします。さて、板厚はどのくらいアップすればよいか。

ここではとりあえず曲げの力が主に加わっているとします。ここでも同様に13項で紹介した公式を確認すれば推定することができます。

曲げの力が加わった時の応力は、曲げモーメントと断面係数によって計算できます。対策後も曲げモーメントは同じだとすれば、断面係数を変更すればよいことになります。断面係数は板厚の2乗がパラメータとして入っていますから(断面二次モーメントの項も参照)、応力を半分以下にしたいならば、板厚を√2倍以上にすればよいことになります。ねじりの場合も同様ですが、引張り圧縮の場合は2倍以上の板厚にしないとなりません。

このように材料力学の公式を理解していれば、FEMを実施しなくとも簡単な対策方法であれば、手計算で対策の効果を推定することができるようになります。

私がまだ新米の頃、応力対策の検討会議において、ベテラン技術者がその場でさぁっと暗算し、”それでは、板厚はこのくらいにすればよいね”などと言っている姿を見て感動した覚えがあります。

FEMが使えるようになると、すぐにそれに頼ってしまいがちですが、こういった材料力学の基本的な考え方を理解することは、より良い製品設計の助けになると私は考えます。

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