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9.弾性率|材料力学

FEMで構造解析を実施する場合、使用する材料の特性として設定する項目には必ず弾性率があります。弾性率は前項で説明した応力ひずみ線図における弾性域(の線形部)の傾きで、弾性係数とも呼ばれます。

弾性率には後で説明するように3つの種類があり、単に弾性率というとそれらの総称です。また、弾性率にはそれぞれいろいろな呼び方がいろいろあってややこしいです。特に〜弾性率と言ったり、〜弾性係数といったりなど、それぞれ統一的ではなく業界により言い方が異なる場合もあるようです。本項でもそれぞれ入り乱れて使いますが、私がよく使う呼び方で説明することとします。その辺ご容赦ください。

縦弾性係数

縦弾性係数は縦弾性率、またはヤング率とも呼ばれ、前項で説明した材料の引張試験により得られた応力ひずみ線図における弾性域(の線形部)の傾きとして定義されます。図9-1に応力ひずみ線図の模式図を示します。


図9-1.軟鋼の応力ひずみ線図

このような応力とひずみの関係を式で表すと、式(9-1)のようになります。

 ・・・(9-1)

σ:応力、ε:ひずみ、E:縦弾性係数

傾きとは結局のところ応力とひずみ間の比例定数ということもできます。

横弾性係数

横弾性係数は、横弾性率、せん断弾性係数、せん断弾性率、剛性率、ずれ弾性係数、ずれ弾性率などとも呼ばれます。横弾性係数は、縦弾性係数における(垂直)応力と(垂直)ひずみの関係を、せん断応力とせん断ひずみの関係に置き換えた場合の比例定数として定義されます。

 ・・・(9-2)

τ:せん断応力、γ:せん断ひずみ、G:横弾性係数

体積弾性率

体積弾性率は体積弾性係数とも呼ばれます。これまでは垂直方法や横方向など、ある一方向のみのひずみに対する応力の関係で定義していましたが、体積弾性率は体積ひずみに対する圧力の関係の比例定数として定義されます。体積ひずみは体積変化を元の体積で割ったものですが、各垂直ひずみの和としても定義されます。

 ・・・(9-3)

 ・・・(9-4)

p:圧力、εV:体積ひずみ、K:体積弾性率、ΔV体積変化、V:体積、
εxx:x方向垂直ひずみ、εyy:y方向垂直ひずみ、εzz:z方向垂直ひずみ

部材を高圧の環境にさらして、各方向一様に収縮した状況を考えるとわかりやすいでしょうか。

ポアソン比

弾性率と同様に非常に重要な材料パラメータとしてポアソン比があります。例えば丸棒を軸方向に引張ったとき、軸方向のひずみ(縦ひずみ)が発生することは当然ですが、同時に径が細くなる方向にもひずむ(横ひずみ)ことは感覚的にも理解できると思います。この時の横方向ひずみと縦方向ひずみの比がポアソン比となります。これを式で表現したのは式(9-5)です。縦ひずみが正値の場合、横ひずみは圧縮方向になるため負値となることに注意してください。

 ・・・(9-5)

ν:ポアソン比

鉄鋼材料では0.3程度値になることが解っています。またポアソン比の最大値は0.5です。これは材料を変形させても体積変化が完全にないことを表しています。例えばゴムのような材料は0.5に非常に近い値を示すことが知られています。

また特殊な例として、ポアソン比が負値となる材料もあるようです。このような材料は垂直方向に引張ると横方向に膨らみ、圧縮すると横方向に縮みます。普通に考えると有り得ない気もしますが、特殊な内部組織構造によってこのような特性を示す材料もあるようです。多くは高分子材料のようです。

各弾性率を関係付ける式

これまで説明した縦弾性係数E、横弾性係数G、体積弾性率Kはポアソン比νによってそれぞれ変換することができます。下式は縦弾性係数から横弾性係数、体積弾性率を求める式を紹介します。

 ・・・(9-6)

 ・・・(9-7)

したがってFEM構造解析を実施する際、材料設定においてそれぞれの弾性率を入力する項目があったとしても、どれか一つの弾性率とポアソン比を入力しておけば問題なく計算することができます。主には縦弾性係数を使うことが多いです。

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